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シスメックス株式会社

「自社製品の導入で実現した業務改革 営業力に直結する経理部門の誕生へ」

  2005年 WEDGE 6月号掲載

誰もが一度は受けたことのある血液検査、病気の早期発見や、患者に対して適切な診療や治療を行う上で欠かせない重要な臨床検査だ。毎日、数多くの検体が集まる病院の検査室や周辺地域の検体を集約して検査を行う検査センターでは、いかに効率良く、スピーディーに、そして何よりも正確に分析データを報告するかが最大の課題だ

こうした検査の自動化と効率化を実現するシスメックスは、血球計数分野で国内トップ、世界でも第2位のシェアを握るメーカーだ。機器だけでなく試薬や運用管理まで、総合的に提供することで、他社の追随を許さない高い信頼性を誇っている。その信頼性を最先端のデータベース技術で支援しているのがアイエニウェア・ソリューションズだ。

検査機器と試薬で正確な検査結果を提供

シスメックスがこの分野に進出したのは1961年にさかのぼる。当時、拡声器を製造していた東亜特殊電気株式会社(現・TOA株式会社)が、その技術を生かして医用電子機器業界への進出を決めたのだ。
 拡声器の技術とは、声を電気信号に変換し、声の信号だけを判別して増幅することで、ノイズを消して声を聞こえやすくする仕組みである。一見、血液とは何の関係もないように思えるが、小さな血球を判別する際に、微弱な電気信号を処理すると言う点で、コア技術が利用できる分野だったのだ。その東亜特殊電機が1968年に販売子会社として東亜医用電子株式会社を設立、1972年には親会社からME機器部門を譲り受け、検体検査機器・試薬メーカーとしての第一歩を踏み出した。そして1975年、初の国産全自動血球計数装置「CC-710」を発売し、以来、より多くの検査項目に対応できるよう技術開発に専心してきた。
「従来の血球検査では、技師が顕微鏡を覗いて赤血球や白血球、血小板の数を数え、種類や状態を判別していたため、多くの時間と労力を必要としていました。自動分析装置の導入によって、検査精度を一定の水準に保ちながら時間を大幅に短縮できるようになりました」(シスメックス株式会社 機器開発本部 商品開発グループ部長 片山雅之氏)。
 シスメックスの現在の主力製品のひとつが、多項目自動血球分析装置「XE-2100」だ。特殊な染色技術とレーザー光を使って血球細胞を測定する「フローサイトメトリー」をコア技術とし、血球の数だけでなく、さまざまな項目を自動測定する装置である。日本では機器メーカーと試薬メーカーに大きく分けられるが、こうした機器だけではなく、検査に使う試薬やソフトウェアも含めて自社で提供できる体制を整え、総合的にサポートできるのはシスメックスが唯一だ。「機器だけを提供するメーカー、試薬だけを提供するメーカーはたくさんありますが、検査は機器と試薬の両方があって初めて行えるものです。全てを自社で提供できるシスメックスは、検査結果に対して責任を持てるということであり、その点がユーザーからも評価されています」と片山氏は語る。

データベースエンジン導入で製品開発をスピードアップ

XE-2100のデータベースエンジンとして採用されているのが、アイエニウェアのSQL Anywhere Studioである。「以前ハコンピューターのOSやソフトウェアも独自開発していましたが、XE-2100ではプラットフォームにWindows NTを採用しました(現在はWindows 2000)。その際、データベースも合わせて信頼性の高いエンジンを導入しようということになり、いくつかのベンダーに相談したのです」(シスメックス株式会社 機器開発本部 基盤技術開発グループ ソフトウェア系チーム係長 朝田祥一郎氏)。
 機器と試薬の技術に加えて、IT技術も追っている点がシスメックスの大きな特長のひとつだ。3つの技術のシナジーが高付加価値な製品の提供を可能にしている。Windowsプラットフォームの導入とデータベースエンジンの強化は、こうした競争力の高い製品をより迅速に提供し、市場のニーズにタイムリーに応えるための施策のひとつであった。要するに、データ管理やコンピューターのリソース管理には信頼できるプラットフォームを利用する一方で、自社のIT技術力医療関連分野のソフトウェア開発にフルに活かし、製品の開発スピードを向上させるというわけだ。
 データベースエンジンの比較のポイントは二つあった。一つ目は親和性である。シスメックスでは、複数の検査装置のデータを統合管理し、フォーマットに合わせて出力するLIS(検査室情報システム)の開発と製品化も行っている。LISで使用するデータベースとの互換性やデータをやりとりする際の親和性は重要なポイントだ。そして二つ目はやはり価格面だった。一台の装置ごとにライセンスが必要となるが、複数の装置を導入する病院や検査施設も多く、ライセンスあたりの単価が高くては受け入れられない。「これらの条件をフルに満たしていたのがSQL Anywhere Studioでした。もちろん処理速度や安定性、信頼性、拡張性といったデータベースエンジンとしての基本性能も申し分ありませんでした」(朝田氏)。

製品とサポートの総合力で市場の支持を得る 

市場に出たXE-2100は医療関係者の高い支持を得ている。XE-2100がターゲットとしているのは大学病院、市民病院などの医療機関だが、そお市場では国内の65%、海外を含めても25%という高いシェアを獲得している。トップシェア獲得のカギは、シスメックスのサポート力だ。1998年の開発開始から7年以上が経つが、その間にも大学病院など研究協力期間からのフィードバックや新たな研究成果をもとに、検査項目の追加など頻繁にバージョンアップを行っている。型番こそ変わらないが、ニーズに対応した新機能を備えた最新鋭の機器なのだ。
 さらに、もう一つのシスメックス独自のサービスとして、日常の検査機器運用をサポートするネットワークサービス「SNCS(Sysmex Network Communication Systems)」がある。SNCSでは、設定した基準物質の分析データをネットワーク経由でシスメックスに送信し、機器の精度を定期的に外部関しする「オンラインQC」とエラー状況をネットワーク経由でモニタリングし、故障の兆候を予測して日常の手入れや管理をアドバイスする「リモートメンテナンス」を提供している。Windowsプラットフォームへの移行で可能となった、トラブルを最小限に抑えるサービスだ。現味、XE-2100を利用するユーザーの多くがこれらのサービスをオプションで契約している。これまでは検査技師がそれぞれ行っていた機器のメンテナンスや精度管理といった日常的な管理業務をシスメックスのプロフェッショナルな技術によってサポートすうるため、機器のダウンタイム(故障によって検査機器が使用できない時間)の大幅な低減も可能にした。
 国内トップシェアを誇るXE-2100だが、決して価格で勝負しているわけではない。「検査機関を売っている以上、正確な検査結果を導き出すことは大前提。試薬とサポートサービスまで含めた総合力という付加価値こそ、シスメックスの最大の強みだと思います(片山氏)。

今後の注力分野はライフサイエンス

シスメックスは国内2ヵ所と海外5ヵ所にソフトウェア開発拠点を置き、国ごとに異なる検査基準や法制度にマッチした製品開発とLISを含めたトータルソリューションの提供をグローバルに展開することで、血球分析装置の分野で世界第二位のメーカーとなった。2004年には米国での直接販売・サービスも確立し、世界トップも視野に入ってきた。
「当社では、次なる注力分野としてポストゲノムやバイオテクノロジーなどを活用したライフサイエンス分野にフォーカスしています」(片山氏)。
これまでは病気の診断に必要な検査システムを提供してきたが、今後は予防や治療後の患者のQOL(Quality Of Life)向上に焦点をあてた検査分野の開拓を目指す。最近の研究結果として、2005年1月に、世界で初めて高い精度で早期乳がんの再発予測を可能にする技術を発表した。
「例えば、早期乳がんの5年生存率は87%と言われていますが、患者さんにとっては「再発するのか、しないのか」、つまり100%か0%かなのです。それを正確に予測できれば、ひとりひとりの患者さんが納得して、最適な知要を受けられるのです」(片山氏)。XE-2100でリーディングカンパニーとなったシスメックスは、より一層豊かな健康社会づくりを目指し、新たな領域へと歩み始めている。


シスメックス株式会社
〒651-0073 神戸市中央区脇浜海岸通1-5-1
TEL 078-265-0500 (代)
http://www.sysmex.co.jp

血液や尿などの検体検査の分野を事業領域として、機器、試薬、検査データの運用、管理を支援する検査情報システムを含めたトータルソリューションを提供する。また、新たな事業分野として、予防検査や確定診断のための検査技術の開発にも注力しており、今年1月には、高精度で早期乳がんの再発予測を可能にする世界初の「がん再発予測診断技術」の確立を発表した。